■地域の特性

温暖で降水量が少ない、いわゆる瀬戸内気候区。8・9月に来襲する台風が多く、暴風台風常襲地帯になっている。

人口約120万人。

平地の大部分は、太田川流域に形成された沖積平野で、市街地の大半は軟弱な地層。

デルタ市街地は、周辺部に比べ 6.6 倍の人口密度で、昼間流入人口を考慮すれば、都市災害による人的被害の危険性が中央に集中している。

災害対策は、主に台風や豪雨等による風水害を考えており、高潮による浸水、洪水による浸水、低地帯等の内水氾濫による浸水、大雨による土石流・がけ崩れ等、強風・竜巻による家屋の倒壊等を予想している。

■内容

 広島市での危機管理室・専門官としての勤務、お疲れ様でした。

どの位の期間、勤務なさっていたのでしょうか。

 平成27年8月~令和4年3月末まで、6年8ヶ月間、勤務していました。

 今日は、令和3年8月の豪雨災害での対応について、話して頂けるそうですが、災害対策本部などの広島市全体の防災体制から説明して頂けますか。

 特に他の自治体と異なるところはないと思いますが、災害対策本部を設け、ラインのみの組織を、ライン・スタッフ併存組織に組織替えして対応します。

役所には、災害時、救援部隊などを“運用”したり、被災者や救援部隊の“兵站”支援をしたり、関係部内外機関と調整したりする機能はありません。

自衛隊の作戦でいうS-3(作戦運用)、S-4(兵站)、S-5(部外連絡調整)の機能がありませんので、危機管理室がそれを担わなくてはなりません。

災害対応ですから、トップダウンで仕事をしていかなければならないのですが、皆、経験がないので、何を決めなければならないのかが分からない、どのように業務を調整して良いのか分からない、どのように指示をして良いのか分からない、というようなところが一番苦労したところでした。

災害対応の全体像が見えていないので、仕事のスケジュール感もないのです。

市役所の職員は実務能力が高く、普段はボトムアップで仕事をしています。ハッキリと明確な指示が出されれば動きますが、災害応急対策を迅速に行うことには不慣れです。

市長に直接決済を受けて、すぐに災害対策本部員会議で指示を出す。臨時に予算要求して必要なものを調達し、物流を確保して、供給していくための実務に関する指示を具体的に出さなくては、動くことはできません。

そこで自衛隊的に言うと、私が作戦・兵站・将来作戦・予算を分掌することになりました。

 とても大変そうですね。令和3年8月の災害は、どのような災害だったのでしょうか。

 実は、その前の令和3年7月に、全国各地で豪雨災害が起こりました。特に、熱海市で起きた土石流災害が話題になった豪雨災害です。

このときから、災害対策が始まっていたと言って良いと思います。

この7月豪雨災害のとき、静岡県、鳥取県、島根県、鹿児島県内の市町村では、災害救助法が4号基準で適用されましたが、広島県内の市町では適用されませんでした。

そのため、河川氾濫や内水氾濫で住家被害の出ていた竹原市・三原市・尾道市では、災害応急対策や災害復旧でとることのできる選択肢が限定され、大変苦労されていることに気がつきました。

 それが広島市の教訓になったということですか。

 はい。8月の豪雨災害は、幸いにして死者1名、全壊8棟でしたが、被災者支援のために、さまざまな努力や処置をとることができました。

人口120万人の広島市で、1200人以上が指定緊急避難場所に避難済みであったこと。

鈴張川の緊急安全確保(河川)発令し、安佐南区・西区で避難(土砂)指示、緊急安全確保(土砂)を相次いで発令し、現に、土砂災害が発生したことなどから、最終的に、災害救助法が広島市全区に適用されることになりました。

広島県の健康福祉局と同時に、内閣府(防災)被災者支援参事官室と連携をとれたことが良かったと思います。

 災害救助法の適用基準というのは、どのようになっているのですか。国が判定するのではなかったでしょうか。

 内閣府と協議の上で、都道府県知事が適用を決定するのですが、1~3号は明確な基準がありますが、4号の基準は、運用に柔軟性のあるものとなっていますので、内閣府と都道府県の協議次第でどうにでもなるとも言えます。

したがって、県の判断、特に広島県では担当部署である健康福祉局が適用の方向で内閣府と協議するか否かがポイントとなりますので、被災市町と県との連携は重要ですし、県や内閣府の担当者に、被災の状況を的確に認識してもらうことが必要です。

そういう意味で、メディアによる報道の影響力は大きいと思います。

 コロナ状況下での災害でしたが、感染症対策などで、何か教訓はありましたか。

 新型コロナウイルス感染症の感染防止には、気を遣いました。

コロナの感染防止の観点からは、どんなに対策をしたとしても、集団生活そのものが良くありません。集団生活そのものにリスクが生じます。

私が、熊本地震のときに派遣された、人吉市の避難施設の写真(防衛省公開)を見ると、リスク対策の必要性へのイメージが湧くと思います。

そのため、発災から13日目には、小学校体育館などに設置した避難所を閉鎖し、世帯ごとにホテルで避難所生活をおくって頂くことにしました。

ちなみに広島市は、みなし応急仮設住宅の物件は豊富にありましたし、みなし応急仮設住宅入居申請では、当面、罹災証明不要・自己申告でよしとし、住宅修理サービス提供とみなし応急仮設住宅提供は2重提供も可能としていました。

更に、広島市では、家財道具も災害救助法の一般基準よりも手厚く、電気冷蔵庫・電気洗濯機・エアコン・テレビまで提供していましたので、ほとんどの避難者は、9月上旬には、みなし応急仮設住宅に入居されました。

Q 災害救助、災害の復旧・復興に関してさまざまな国の法令がありますが、どのようなものがあるのでそうか。また、適用されたものはあれば教えて頂けませんか。

 激甚災害法の激甚災害指定があります。

激甚災害指定の建前は、あくまでも被害金額の規模ですが、国土交通大臣や農林水産大臣の被災地視察時の直訴や国土交通省地方整備局や農林水産省地方農政局との直の調整も効果があります。

公共土木施設(国土交通省)に関する劇甚災害の指定はハードルが高く、また市が維持管理する公共土木施設は激甚災害の指定で国庫負担金の補助率や特別地方交付税の措置率のかさ上げがあるだけなのですが、農林産施設(農林水産省)は、民間が保有しているものが多いので、公費が支出されるか否かによって、復旧・復興に非常に大きな影響があります。

市長の関心も高く、農林水産施設は、激甚災害に指定していただきました。

災害弔慰金支給法の適用もあります。

これは、県警の災害死認定と連動し、警察が判断出来ない場合に限り、被災者や被災者遺族に有利になるように配慮した上で、市が認定を行います。

今回は、8月13日に亡くなったのですが、警察が「判断出来ない」と結論を出せたのが8月31日だったので、市が災害死を認定し、災害弔慰金支給法を適用するのに9月7日までかかってしまいました。

また、被災者生活再建支援補助金条例は、近隣市町と連携することによって、適用して頂くことができました。

何としてでも、住家が全壊・大規模半壊した被災者に現金の給付を行うことが至上命題だということで、連携を図りました。

その他には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用などがあります。これは環境省との関係が出てきます。

 大臣が現地を視察して国が支援金を出すというのは、政治家にとって重要な枠組みですね。   

素晴らしいご活躍だったと思いますが、そういった災害関連法令の適用などの実務については、どのような機会に、いつ学ばれたのですか。広島は、災害の少ないところだと思うのですが、OJTで学ばれたのでしょうか。

 内閣府が2回/年、約1ヶ月間の防災スペシャリスト養成研修を実施しています。その研修を受講したことが、役立ちました。もちろん、自分でもかなり勉強しましたが、勉強しなくては知識が追いついていきません。

  地域防災マネージャーの認定を受けるためには、内閣府の防災スペシャリスト養成研修か、防衛省の防災危機管理教育のいずれかを受講することが必要です。

例えば、今年度から災害救助として、「住宅」応急処理サービスとみなし応急住宅の2重現物支給」ができるようになっていましたが、その変更に伴う事務処理の細部を承知していなくて事務誤りを起こし、広島市に損失を出させてしまいました。

やはり、法令を勉強して、実務手続きをしっかり確認していないといけないと、身に滲みて感じました。

 最後に、どこの基礎自治体にも共通する課題として、市役所の災害対処能力向上の鍵となるのは人材育成だと感じているのですが、人材育成面で、努力されていたことがあれば紹介して下さい。

A 私が着任した当初から、副市長が防災関係の人材育成に熱心で、H28年から継続的、計画的な人事育成に着手されました。それが大きかったと思います。

【後記】

災害時の基礎自治体での豪雨災害対応の実務について、詳しく聞くことができました。

自衛隊のOBは、運用面での視点を強く意識しがちになりますが、法令に精通し、地方自治体の行政面での実務について学ぶことの必要性を感じました。

特に、基礎自治体の危機管理担当部署が、国土強靱化地域計画の策定を担当することが必須になっている現在、運用面での強みに加えて、自衛隊で培った計画策定面での調整能力を活かして、行政面で平時と有事を連接する役割を果たすことが求められているように思いました。以上