■対応

志摩市 防災危機管理室 防災技術指導員 矢吹匡

■質疑応答

Q 志摩市の防災上の特性を教えてください。

A 志摩市が太平洋に面している地理的特性から、防災の焦点は、地震、津波対策になっているがリアス式海岸で、標高 35~36mの海岸段丘が発達しており、海岸段丘部の地盤は比較的固いのが特徴です。

ただし、英虞湾や的矢湾などの沿岸部は、沈水海岸で比較的地盤が弱くなっている。

Q 太平洋に面しているので、津波は、東日本大震災のときのような大津波がくることを想定しているのですか。

A 最大浸水深で、約9mです。1944 年 12 月 7 日の東南海地震(M7.9)では、津波の高いところで 9.0mを記録しています。震度は5、一部震度6でした。

南海トラフ地震も同程度を予想しています。過去の地震は、次の通りです。

  1. 東南海地震(1944 年 12 月 7 日、M7.9):県内では震度5(一部震度6)、津波は9.0m
  2. 南海地震(1946 年 12 月 21 日、M8.0):県内の震度は4(一部震度5)、津波は4~6m
  3. 3 チリ地震津波(1960 年 5 月 22 日、M8.5):三重県沿岸での津波は 1~4m
  4. 紀伊半島南東沖地震(2004 年 9 月 5 日、M7.4):逆断層型のプレート内地震。震度 4。
  5. 三重県中部を震源とする地震(2007 年 4 月 15 日、M5.4):震度は震度5強

Q 太平洋に面しているので、南海トラフ地震だと、あっという間に津波が押し寄せるのではありませんか。

A はい、その通りです。避難する、対応の時間がないのが大問題です。

特に、特定避難困難地域にある9地区2,000人の住民避難が課題です。

Q どのような対策をお考えですか。

A 特定避難困難地域は、9地区2,000人。避難する時間的な余裕がありませんので、その地区には、津波避難タワーを建設しようとしています。

令和8年までに10基建設する予定です。

例えば、鉄筋コンクリート構造のものは、1台で約100人収容できるものと、約250人収容できるものがあったと思います。発電機や備蓄物資を備えています。

(57) SHIMA NEWS&REPORT – YouTube

Q 津波避難タワーだけでは、対策としての限界があると思いますが、その他の対策はどのようにお考えになっているのでしょうか。

A 一番の基本は、住民に対する啓発です。啓発による早期避難の実現です。啓発があって、初めて、津波避難タワーも役立つことになます。

南海トラフ地震の最悪シナリオでは、約8,700人の死者を想定しています。

そのうちの7,700人が津波、1,000人が圧迫死と火災による死亡ですが、啓発で、早期避難及び対策を徹底することにより、5,200人は助かる可能性があると考えています。

志摩市では、「市民を顧客として事業を展開している防災関係機関が実施する対策」と「市民が実施する対策」の2つについて、啓発に力を入れています。

市民を顧客として事業を展開している防災関係機関が実施する対策

  1. 事業活動を通した防災思想・防災知識の普及・啓発事業の実施
  2. 市の防災思想・防災知識の普及・啓発事業への協力

■市民が実施する対策

  1. 家族での防災についての話し合い
  2. “揺れから命を守るため”の防災対策の推進
  3. “発災後 72 時間生き延びるため”の防災対策の推進
  4. “被災後の生活再建のため”の防災対策の推進
  5. “津波から命を守るため”の防災対策の推進

Q 避難後の生活は、どのように考えているのでしょうか。

A 特定避難困難地域の方々には、約1週間分の備蓄物資を用意しています。浸水地域に住む1.6万人の住民には、3日分の食料を備蓄しており、概ね9割方、実現しています。

南海トラフ地震では、震源域が連動して発生することが予想されていて、そのときには避難生活が長くなる可能性があるので、その対策までは十分な準備ができていないのが課題になります。

【後記】

志摩市の地域防災計画では、地形的特性と過去の経験に基づいて、「啓発による早期避難の実現」と避難後に備えた「備蓄推進」に力を入れている。

地誌や被害想定を見ても、地形と被害が生じる原因との関係、住民の書道対処の重要性は明らかになっており、極めて妥当な考え方だと思う。いかに啓発教育を普及徹底し、防災意識を定着させるかが課題だろう。

特に、志摩市で最も大きな災害が想定されている国府地区は、災害の焦点であり、この地区で、重点的に啓発、津波被害対策を徹底することにより被害を激減させることができ、それは志摩市全体の防災モデルとなる。

幸い、志摩半島の海岸段丘は固い地盤でできていて、海岸部へのアクセス経路を整備すれば、避難地域としては適している。森に囲まれ、自然環境を生かしたリゾート施設や住民の憩いの場を避難施設として造ることもできそうだ。元々、国府の海岸は、海外でも有名なサーフィンの聖地だという。

志摩市の海岸部の美しい景観を損なうことなく、大規模災害、特に「津波災害から逃げるための対策」を徹底し、自然環境との共生を図ってもらいたいものだと思う。

以上