最近、中共との外交関係がゴタゴタして話題になっていますが、もともと共産主義国は、資本家との闘争に勝つことを使命としている国ですから、資本主義国との戦いという「恐怖(強い不安)」を内外に印象付け、それを収める平和や協調を唱えることによって「安心(安定への期待)」を与え、対象勢力からの譲歩を引き出して地歩を拡大し、最終的には「共産主義による平和(資本主義国の撲滅)」を獲得しようという戦略をとります。

それが「恐怖・安心の心理戦」です。

最近は「認知戦」という言葉がはやっていますが、本質は目新しいものではなく、古代からある伝統的な「恐怖・安心の心理戦」だと思います。

そこで「恐怖・安心の心理戦」について、簡単に解説します。

1 恐怖・安心の心理戦とは

恐怖(強い不安)と安心(安定への期待)を交互/対照的に提示し、人間の判断・行動・帰属先を操作する戦略は、軍事、宗教、政治、マーケティング、組織統率、プロパガンダ、カルト、外交交渉など、あらゆる分野で利用されてきた普遍的な心理操作です。

2 基本原理

① 恐怖は、人を従属・集中・服従状態へ導く。

恐怖は、対処する方法を考えるよりも“逃げる/従う”方向に向かわせます。

拠り所へ依存しようとする気持ちを増大させる、「敵・味方の二元思考」へ誘導する、迅速な意思決定により「判断を単純化」させる、「安全を確保してくれる者」への忠誠を感じさせる等、恐怖は主体的な思考を奪います。

②「安心(保護・恩恵)」は、信頼・忠誠を形成する心理的反応を生む方向に働く

感謝・救済体験によるポジティブな記憶を作り、保護してくれる存在への忠誠心や所属意識・帰属意を強くし、「ここにいれば大丈夫」という自己肯定感を求めるようになります。

安心は、主体性を回復させ、帰属先を固定する方向に働きます。

③恐怖と安心を「セット運用」すると依存心が形成されます。

人は、「危機(恐怖・強い不安)→救済(安心)」の流れを体験すると、「この存在だけが私を危機から守ってくれる」と錯覚しやすくなるからです。

これは心理学で、「救済体験による同調帰属(救済依存)」と呼ばれます。

3 心理戦における循環構造を作り、行動判断の軸を奪う。

フェーズ目的心理効果
①恐怖の提示緊張・危機感・無力感を覚えさせる判断停止・服従
②安心の提示逃げ道・安全基地を用意する安堵と感謝
③安心への条件化安心は服従、忠誠、協力の代価で得られると暗示依存と忠誠
④恐怖の再提示離反しようとする心への警告離脱できない構造

4 歴史・軍事・政治での典型的用例

古代宗教

災厄・祟り(恐怖) → 「祈祷が秩序維持の唯一の解」である印象を与える

軍事・戦争プロパガンダ

外敵脅威・民族浄化・滅亡の危機 →「我々は守る側」だと、正義・正当性を主張

●カルト宗教・セクト型指導者

世界崩壊・地獄・不幸の強調 → 「救われるのはここだけ」「離れたら不幸になる」

組織統率・ブラック企業

「失敗すれば責任」「周囲が敵になる」 → 「ここで努力すれば安全・評価が得られる」

  • 現代社会では、「情報」が主役となり、「恐怖」で注意と依存を引きつけ、「安心」で優位を固定する。
恐怖のツール安心のツール
フェイクニュースフィルターバブル(自分と同じ価値観の群れ)
不安の可視化(災害・治安・経済)“解決策”を掲げる指導者・政党
SNSによる炎上承認・フォロー・コミュニティ帰属
リスク報道安心商品のマーケティング

5 恐怖・安心の心理戦に「勝つ」方法

相手に支配されないためには、「思考停止」を回避することが最大の防御となります。

恐怖の発信源が“現実”か“誘導”かを見極め、安心の供給者が“無条件”か“服従の対価”かを判断し、複数の対応手段を持つ(一つの対応手段に頼らない)、帰属先と自分の利益が一致しているかを精査する、そして「考える時間を奪う情報」を疑うことが大切です。

6 結論

恐怖と安心の心理戦の本質は、「人は恐怖によって従属し、安心によって忠誠する」という言葉に象徴されます。

したがって、次の3つを結論とします。

① 恐怖を煽りながら安心を与える者は、強い支配力を持つ。

② 恐怖と安心の組み合わせを見抜けない者は、簡単に心理操作される。

③ “安心”は無条件であるべきで、代価を要求する安心は支配の手段である。