4 人を知る、「人こそ人の鏡」

「人こそ人の鏡」とか「人の振り見て我が身を照らせ」ということわざがあるように、他人をよく観察することは「自分を知る」とても良い機会になります。

自衛隊(少なくとも私が最初に配属された部隊)では、以前、知能検査やクレペリン作業能率検査、矢田部ギルフォート性格検査などの性格検査を用いて隊員の性格を把握し、服務指導の参考にしていました。

私が最初に赴任した部隊では性格検査などに詳しいベテランの服務指導担当幹部がいて、非常に丁寧に教わりました。性格検査の見方や使い方から服務指導の在り方まで、隊員一人ひとりの観察結果の例をあげながらの説明は、非常に分かりやすく、説得力がありました。

例えば、矢田部ギルフォート性格検査(YG検査)。

この検査では、12の特性ごとに10問ずつ、120問の質問によって、性格を測定し、5つのプロフィールに性格のタイプを分類します。5つのタイプに分類していると言うだけで、別に優劣があるわけではありません。

A型(Averege Type)  :平均型

B型(Black List Type) :不安定不適応積極型

C型(Calm Type)   :安定適応消極型

D型(Director Type) :安定積極型

E型(Eccentric Type) :不安定不適応消極型

自衛官の場合、先輩が後輩を指導することが当たり前の仕事となっていますので、D型(ディレクタータイプ)が出やすくなります。そうしなければいけないと、繰り返し教育しているからです。ですからD型(ディレクタータイプ)に見えるが、本性は他のタイプだという、いわゆる「疑似のD」があります。

「疑似のD」に気がつかず、普段しっかりしているから大丈夫だと思って任せきりにしていると、普段は非常に素晴らしい仕事をしていても困難な場面に遭遇して苦しくなった際、誤判断や事故を起こす恐れがあります。特に特異な行動をとりやすい傾向のあるE型(エキセントリックタイプ)で「疑似のD」タイプの人には、アドバイスをしたり、補佐をつけたりするような配慮していました。

クレペリン作業能率検査の結果も、長時間継続する作業の場などでは、傾向がよく現れていました。

隊員の性格特性に応じた指導が行き届いていたからか、隊員がのびのびと仕事に集中できていました。何よりも、隊員一人ひとりに対する関心が高く、上下左右の人間関係がとても円滑であったと思います。

服務事故(規律違反)はほとんどなく、訓練の成績は優秀で、「何故あの部隊にばかり優秀な隊員を集めるのだ」と言われるほど、配属された隊員が立派に育つことが伝統となっている部隊でした。

性格検査は人物評価の材料ではありませんが、人をより注意深く、関心を持って観察し、観察結果をもってその人の性格を把握し、その人の能力を引き出す補助手段として役立ちました。

より良い人間関係は、相手のことをよく知ることから始まります。人を見る目、観察眼を養うことは、どこへ行っても必ず役に立ちます。

人には演じている姿と内なる本性の姿があります。人は皆、指導する立場(リーダー)になる機会があり、演じなければならないときがあります。

そういう視点で人を観察していると、自分自身に対しても、それまでとは違った眼で見ることができるようになります。人間を科学する視点を活かしていきたいものです。