ここのところ、なんとなく空が曇って鬱陶しい。

黄砂が飛ぶ度に思い出すことがある。

中国の大使館勤務者との会話。彼が来日してすぐの頃に一度会い、任期が終わる頃に再会した。

確か・・・という程度で、顔も覚えていなかったので、「まだ、いらっしゃったのですか。ずいぶん長い勤務ですね。以前お会いしたことを覚えていますか・・・」と言うと、雰囲気から察するに、先方もまったく覚えていないらしく、愛想もない。

ボソッと、「そうでしたかね。・・・もうすぐ二任期目が終わります」。

「ご苦労様でした。良かったですね。やっと帰れるので楽しみでしょう?」と言うと、どうやら酒宴の場で、呑むなと言われているらしくて、酒も飲まずに何か中国のことをブツブツしゃべる。言葉と裏腹で、とにかく表情が冴えない。

「あまり嬉しそうでないけれど、帰りたくないんじゃないの?」と冗談めかして言うと、図星だったのだろう。

「いや、日本にいたいんだが、長くなったからこれ以上は延長できないと思う。家族も子供も日本に馴染んでしまったから、残りたいって言っているんだが」と、ますます暗い雰囲気で語る。

日本勤務は、住みやすいので人気があって、大使館勤務者は皆、勤務延長を希望するらしい。家族共々、落ち込んでいるのかも知れぬ。

「へぇ~」なんて思いながら聞いていると、その次の言葉に驚いた。

「中国はもう終わりだ。北京は無くなってしまう」。

あとから思えば本音だったような気がするのだが、中国の大使館員がそんなことを言うとは露ほどにも思っていなかったので、思わずこちらが気を遣って「中国に遊びに行った友人が、凄い成長で日本より凄い都市化、自動車化なのでびっくりした。これからは中国の時代だと言って感心していましたよ」。

実際、アンチ中国だった人物が、遊びに行った実感として語っていた。

「ご自宅はどちらですか?北京なら良いじゃないんですか。都会だろうし・・・」などとフォローしつつ、「北京がなくなるって、どういう意味??」と尋ねた。

「黄砂がひどくって、北京は埋もれてしまう。天安門広場は、一般人を入れる前に、早朝毎日、人民解放軍が出動して、トラック何百台分もの積もった黄砂を掃き集めるのが日課になっている。機械を入れられないから、毎朝、掃いて集めている。一般人が入場するのはその後だから知られていないが、兵隊たちも皆、嫌になっている」。

「何百台分の黄砂って、集めてどうするんだ?」。

「分からないように、川に棄てる」。

「そんなに棄てたら、分かってしまうし、川が埋まるだろう?!」

「黄河は離れているし、大きいから大丈夫だ」。黄河ときたか??北京からはちょっと遠そうだけれど、瀬戸内海に棄てるようなものか・・・・愚問でした。

「あんなことは、いつまでもやっていられない。無理だ。北京は埋まってしまう」。

北京が埋まるほどの黄砂が、ゴビ砂漠から飛んでくる。

ゴビ砂漠は、気候に応じて、砂漠全体が中央アジア一帯を周回するように大きく移動していると言われるが、ちょっと飛びすぎだろう?!

北京もゴビ砂漠もどうなるのか。

北京がなくなったつぎには、日本海がどんどん浅くなっていくのではないか!?実際、そうなっているという話もあるが・・・。

天安門広場が約900m×約300m。総面積が44万平方メートルだから、黄砂が1cm積もっただけでも相当なもの。

ゴミ一つ無い美しい姿を維持するだけでも大変だろうに・・・。

これも抗しがたい大きな環境問題の一つで、他にも色々な影響があるのだろう。

今は、掃くのはやめて、掃除機ぐらい使っているかも知れない。

黄砂が飛んでくる度に、根暗だったアイツ今頃どうしているかな、相変わらずしょぼくれているのではないか、無事にやっているかな、などと思い出す。