《私が富士学校勤務時代、丁度、母が体調を壊して軽度のアルツハイマーになったため、平日はデイケアに通い、土日は、私が函南まで帰って、面倒をみていました。

食事を出していて、元々、野菜好きで好き嫌いがなく、食べ物を残すことなどなかったのに、ときどき箸をつけない野菜があるのです。

聞いてみると「季節が違うものは、身体に良くないんだよ」。最初は意味が解らなかったのですが、どうやら旬ではない食材には箸が進まないのだと分かりました。

多分、アルツハイマーになっていなければ、決してそんなことは口にせず、「ありがとう」と言って黙って食べたと思うのですが、無意識のうちに身体が拒否して食べなかったのかも知れません。自分が料理するときは当然のこととして、いつも旬の食材を選んで料理していたのでしょう。

今回のエッセーを読んで、子供の頃から、旬の食材を食べさせてくれていたことに改めて気がつきました。母の料理はどれも美味かった。有り難いことです。感謝。(A.Y)》

昨日、家内の友人夫婦が結婚生活46年を記して食事に来てくれました。家内の友人は3人組で、揃って洋服関係でキャンという洋服会社で出会い。その3人組の夫、すなわち我等昭和27年組は皆姉さん女房で各婦人にかしずいているのです。

この現実を見ると、前回の女性蔑視の話はいったいどこの世界の話なんだろうと、友人と話していました。この27年生まれは、どういうわけか3人とも、イモサラダにはソースを掛けて食べるのです。

この友人、村上さんは洋服屋さんなのに、週末には農業をしていて、この農業が本格化してきました。洋服屋の方は社員の方々が優秀で、特に女性社員が、そう、ここでも女性が活躍しております。彼女たち曰く「社長はお金のことだけしっかりして下さい。あとは私たちで大丈夫ですから、農業のほうへ」と云われたと、云っていました。

このコロナ禍のなか、前年比マイナス3割弱で済んだそうです。沢山の洋服屋さんが倒産しているなか、龍圡軒もと云いたいのですが、令和3年1月の売上げは、なんと95000円でした。龍圡軒開店以来、こんな状態は初めてだと思いますが、これは私が望んだことなのです。

それは私が基礎疾患を2つ持っているので細心の注意が必要で、特に今年の冬は気をつけていますので、私のわがままで、初めてのお客様はできるだけご遠慮いただいた結果なのです。今が一番大事なときだと、私は思っておるわけで、家内も納得してくれております。この点ではやはり龍圡軒も家内で持っているわけです。

この27年組の話で、村上さんの趣味で始めた野菜作りが楽しいようで、その夜は色々な野菜や果物、前から私が頼んであったセロリヤック、すなわちセロリの根の玉が今年の夏には出来そうだという話から、どうも新しい時代に私たちはついて行けないようだ、と云う話になりました。

私の場合、料理人という立場から、工業製品的な野菜は欲しくないのです。

たとえば、イチゴです。前回も書きましたが、イチゴの旬は何時か?という問いに、今の人たちはクリスマスから3月がシーズンと答えるでしょう。しかし、私たち55歳以上の方々は、初夏、5月初旬から6月初旬に店頭に出てくる露地栽培のイチゴを覚えていられると思います。まだ、ハウス栽培が非常に珍しい時代を知っていらっしゃる方々です。

前にも書いたと思いますが、私がホテルリッツにいた1975年のクリスマス。帰り道の途中の地下鉄マドレーヌ寺院駅にあるホーションの本店のショーウインドーに真っ赤なイチゴが飾ってあったのです。私の上司、セッションチーフのジャンがホーション出身でよく遊びに行って店員さんも知り合いだったので、思わず店に入って「このイチゴ、どこのイチゴ?」と聞いてしまいました。

「Toshio、お前の国、日本だよ」の答えに、さらにびっくりしたのを昨日のように覚えています。それほど画期的なことだったのです。

でも、料理人としては太陽の陽に当たったものが欲しいのです。この太陽の陽が一番分かりやすいのが、梅干しです。現在売っているほとんどの“梅干し”と云っている物は、実は“梅漬け”です。

もう20年以上前、家内が梅の産地、分倍河原に遊びに行った帰りに梅を拾ってきて梅干しを作りました。最初はさんざん馬鹿にしていましたが、食べてみると美味しいのです。ちゃんと陽の味がするのです。やはり梅干しには、太陽の陽が必要なのです。それもこれも陽が。

もう一つ牛乳ですが、現在、龍圡軒で使わせて頂いている乳製品は、タカナシ乳業のものです。

今から37年ほど前にタカナシ乳業さんが画期的な試みをして、北海道の自社の牧場の牛の乳を一頭ずつ毎日、栄養分析して餌と乳のデータを取っていました。これをその当時、関東のフランス料理業界の主だった料理人の会、クラブ・デ・トラントを北海道の牧場に、実態見学に招待してくれました。

そのときに、牛は24時間前に食したものが血液となり、それが乳として出てくると、説明を受けました。すなわち、夏の青々とした牧草を食した、また冬の干し草を食したときとでは、味が違うのです。夏には夏の気候にあった、そして冬には冬の気候にあった料理が美味しいと思います。

余談ですが、このときに10人ずつ行ったのですが、夜、今問題になっている総務省のように、和食の接待を受けました。北海道と云えば・・・毛ガニ、そうカニです。

そのとき、自分で云うのもなんですが、一流と云われたチーフ達が異口同音に、「こんな美味しいカニは初めて」と云っていました。その料理は、ただボイルされた毛ガニを美しいお姉さんが1人ずつ付いて、きれいに身を外してくれていたのです。私たちも人間でした。

ここにやはり村上さんが出てくるのです。彼も「言い訳だけど」と言いながら、「やはりマルシェで売れるのは、見た目にきれいなものから。味だと分かっていても。今の人たちは“甘い=美味しい”になってしまって、果物も皆、甘いものになってしまっている」と云っていました。

そう、塩梅が味もデジタルになったようで。

バイク仲間の録音技師が、アナログとデジタルの違いを説明してくれました。今までで一番わかりやすい説明でした。「アナログは坂道で、デジタルは十、一なので階段です。」と。

そうデジタルは十、一がハッキリしているからグラデーション、すなわち滲みがないのです。テレビなどのニュース放送によく現れていると思います。

つい先日、英語に堪能な方が大変に憤慨しておられました。

森さんの件で、海外に報道された英語訳が非常に悪い。違う訳で送られているので、あの訳だと海外の人は、本当に怒るだろうと云っておられました。そして日本の報道陣は、いつものように、それについて何も質していない、とおっしゃっていました。

私は、訳文を読んでいないので。でもその方が嘘をつかれる方ではないのを私は知っています。

今の時代、きちんと襟を正していかないと、と思いました。 

https://www.saibouken.or.jp/archives/4282