恐怖・安心の心理戦に勝利する原則
現代社会では「情報」によって、国民の意志が大きく左右されます。思考停止を回避し、考える時間を奪う情報を疑うことを身につけなくてはなりません。
そのためには、自国や国際社会に対して根拠のある主張を発信し、理解と同意を得て支持を拡大すること、相手の恐怖を払い除け安全・安心を自国で保障する姿勢を見せることが非常に有効な対応策になります。
現代の安全保障は「認知」 が主戦場ですので、思考停止を回避して、「自ら語り、世界を味方につける」ことが情報戦に勝つための鍵になります。
以下では、その妥当性を体系的に説明します。

1 「情報を発信する国家」だけが生き残る
現代の情報環境は、事実よりも「認知された事実」が国際政治を動かします。
例えば、尖閣では、中共が「固有の領土」と主張するだけで、国際世論の一部は「係争地」と誤認してしまいます。
つまり、情報を発信した者が定義を作り、何も言わない者は相手の定義に支配されることになります。これが認知戦の恐ろしさです。
2 自国の主張を発信し、支持を広げることの効果
(1) 自国の正当性の確立
国際法上正しくても、国際世論が認知しなければ意味をなしません。
日本が積極的に発信することで、尖閣が日本の固有領土であり、中共の行為が「現状変更の試み」であるという「国際的認知」を確立できます。
認知戦ではこれが最強の防御になります。
(2) 国際的な味方・同盟の形成
自国の正論を発信し続ける国家には理解者が集まり、同盟が強化されます。
例えば、欧州諸国の対中警戒の高まり、ASEAN諸国の連携強化、米豪印との協調は、すべて「日本の説明努力」が基盤にあります。
(3) 情報の空白を放置すると、敵がその空白を埋める
情報空白が生じると、その空白は敵が埋めることになります。敵の定義が支配的になって「国際社会の常識」になると、日本の主張は「例外」「異論」扱いされることになります。主張は発信し続けなければ存在しないのと同じことになります。
(4) 日本がとるべき具体的方策(安心の心理戦)
- 国内外へのリアルタイムでの透明性戦略(情報優位を確保)
- 映像公開
- 海上警備行動の即応化(政治レベルの決心の高速化)
- 行政機関の連携態勢強化
- 同盟国との「法の支配連合」の構築
- 現場に「慣れ」を許さない運用(シフト)体制と教育訓練体制の整備
- 国民への発信戦略(国内心理の強靱化)
3 「安心は自国で保障する」姿勢を示す効果
これは、安全保障の基本であり、心理戦の核心です。
(1) 依存を回避することで「恐怖操作」を無効化する
「相手が恐怖を作り出し、相手が安心を与える構図」(中共のやり方)のなかに入ると、日本は相手国に依存せざるを得ない関係ができてしまいます。
日本が「安心は自国でつくり出す」姿勢を示すことは、相手国の「恐怖による支配」を拒否し、自国民の精神的独立を保ち、周辺国の信頼を獲得することにつながります。
(2) 抑止力は軍事力より「意思表示」で決まる
抑止とは「攻撃したら損をする」と敵に思わせる心理戦の結果です。相手国が読んで、計算しようとするのは、日本の「意志の強さ」です。
そのために、領土防衛への強い意思を示し、自主的安全保障能力を強化し、国民の意志(心理的抵抗力)を発信することは、相手国の計算に大きく影響を与えます。
(3) 「思考停止」の回避
民主主義国家の意志は「国民の意志」によって決められます。国民の「思考停止」を防ぐ最良、最高の方法は、政府が明確な勝利への物語と視点を提示することです。
政府の説明努力があれば、偽情報に流されず、危機を過剰誇張する勢力に動揺しないので、国外からの心理操作に巻き込まれ難くなります。
4 民主主義国家の「開かれた力」
「開かれた力」を生かすことこそが民主主義国家の強みで、認知戦の中核で、心理戦に対する最も効果的な防御と攻勢を両立させる方策であり、現代の民主国家が採るべき基本姿勢になります。
(1) 透明性・説明責任・論理・情報公開・国際発信
「恐怖」を武器とする「恐怖・安全の心理戦」を使う国があるならば、民主国家が対抗できる最も有効な方法は、「透明性・説明責任・論理・情報公開・国際発信」といった民主主義国の「開かれた力」という強みを生かすことです。
民主主義国家は情報戦で圧倒的に有利だ、というのが定説になっています。
(2) 安全保障の最優先原則
自国の正義と行動の理由を語り、国民と世界に説明する国家だけが、「恐怖・安心の心理戦」に勝つことができます。
① 自国の主張を積極的に発信し、同意・理解・支持を拡大する
② 相手の恐怖を払い除け、「自国の安全は自国で保障する」姿勢を示す

