世界を代表するフランスのブランド企業の元締め会社で、最年少20歳台で店長を務めていた男に聞いた話が面白かった。

成績が落ちると、あっという間に上司と部下が逆転し、昨日までの上司が部下になっていたという経験をした、というのである。本人は、そんな目に遭わなかったから良かったと言っていたが、上司がある日突然、部下になっていた。

私も危ないことがあった、と話してくれた。

店長になって1年目はかなり良い業績だったのだが、2年目、営業成績が落ちて、上司に直接報告させられたときのこと。

実情を報告して、一生懸命にやったのだが仕方がなかったのだと、あれやこれやと説明し、「皆、本当に一生懸命にやったのだから、仕方がなかったのだ」と言い訳したあと。

「分かった。お前の部下を全員呼べ」と、部屋に呼び込んで一人一人に質問し、「ご苦労だった」「ありがとう」と、私の部下には穏やかに話しているから許してくれるかなと思ったら、甘かった。

「そのあと、言った言葉がすごかったんですよ」。

「お前は嘘をついている。皆、ピンピンしているじゃないか。お前が言うように必死で働いていたら、普通は、胃が痛くなって食事ができなくなるか、不眠症になって眠れなくなるものだ」「一人もそんな奴はいない。皆、顔色が良くて元気じゃないか!!」。

「必死になって、死ぬ気で働くというのはそういうことだ。本当に一生懸命働かせろ。働かないのはお前が悪いからだ!!」。

「ビックリしたのはそのあとですよ」。

「いいか、これが最後のチャンスだ。煮えたぎった油を飲み見込むつもりでやれ!!」。

「思わず、Yes、Sir!!と答えて、直立不動しました」。

「そのあとは、取り戻したから降格はしませんでしたが、仕事の指示Orderは、命令で、絶対ですからね。日本人は、死ぬ気でやれ、とは言っても、あんなに真顔で、煮えたぎった油を飲み込むつもりでやれ、とはいいませんから・・・。恐ろしかったですよ」。

そのあと彼が言ったことが面白かった。

日本の会社って変ですよね。上司に言われたことをOrder命令だった思っている人は誰も居ませんよ。きいてもきかなくてもいい位にしか思っていないんだから。ひどい人は、お前の言うことをきいてやっている、くらいの態度をするでしょう!? これって組織じゃないですよね。よく成り立っていると、不思議に思います」。

これを国の文化や伝統の違いだと、簡単に聞き流して良いものかどうか。

フランスの一流企業は、厳しい一方ではなかった。

阪神淡路大震災で、被災して店舗が潰れて途方に暮れていたとき、その上司がどこからともなくリュックサックを背負って、現れたというのである。

「元気でやっているか?」

(見りゃあ分かるだろう、と思いながら、営業をチャントやれと言いに来たのだろうとばかり思って)「何とか復旧に向けてやっています」と答えた。

すると、リュックサックから包みを取り出して、「生活資金だ。復旧するまでは仕事の心配はしなくていい。部下の面倒をみてやれ。止めさせるな。金は自由に使っていい。領収書はいらない」。

「これで足りるか?当面、これで食いつなげ。この災害でお前たちを辞めさせるようなことは絶対にしない。生活は守る。心配するな。頑張れ。また来る」。

と、リュックサックから数百万円の札束の包みを出して、すぐに去って行った、というのである。

厳しいOrderの背景にある従業員の生活を守る姿勢、雇用関係を守る責任感、日本の国と自衛隊、企業にどれだけの厳しさと自覚があるか。

世界の一流企業には一流企業なりの理由がある。

組織が、何に対して責任を持つのか。優しいばかりで、仕事にも、部下にも、社会にも、無責任になってしまっているのではないか。

組織文化は創らなければならない。