2 救援部隊の現状

(1) 消防

ア 消防の役割

元来、消防の任務は、消防、災害対応、傷病者搬送の三つの機能に区分して規定(消防組織法第1条)されているが、国民保護法の制定にともない、武力攻撃事態等における国民の保護も消防の任務となった。

消防庁の役割と性格は、時代の変化とともに大きく変わった。

消防や救急救命はもちろん、南海トラフ地震・首都直下地震などの大規模災害への対処、石油コンビナート等の防災、原子力災害への備え、NBC対応などの国民保護から、国際緊急援助活動まで、非常に幅広い役割を担っている。[1]

しかし、実働部隊の実態である消防を握っている管理者は市町村長であり、消防に関する費用を負担している。業務の遂行に当たっては消防機関(消防本部や消防団等)の長を通じて指揮監督を行う。

国や都道府県は、消防が地方自治の根幹である「住民の生命財産の保護」の任務を遂行する実働組織として存在(市町村消防の原則)していることから、市町村からの報告を受けて助言・指導・勧告等をすることが基本となっている。[2] 

イ 勢力とシステム

消防職員数は、16万7,861人で、全国に722消防本部、1,714消防署が設置されている。(令和5年4月1日現在)

消防団は非常備の消防機関としてすべての市町村に配置されていて、消防団員(非常勤特別職の地方公務員)数は76万2,670人になる。

消防本部は、市町村または複数市町村で構成される組合などに設置され、消防に係る人事、予算、庶務などを統括する。

消防本部の常備市町村は1,690市町村、非常備市町村は29町村になる。[3] 

総務省消防庁は、消防に関する制度の企画及び立案、広域的に対応する必要のある事務等を担い、消防関係法令の改正管理、緊急消防援助隊・国際救助隊といった広域部隊の派遣調整、消防の広域化の推進、消防関連の補助金、消防統計に関する事務等を行っている。[4]

災害対応については、災害対策基本法に基づいて「国と地方公共団体及び地方公共団体相互間の連絡に関する事項」を所掌し、緊急時には災害対応の司令塔の役割を果たしているが、「市町村消防の原則」から、消防本部に対する直接の指揮命令権限はない。

地方自治の根幹が「住民の生命財産の保護」にあり、消防が「住民の生命財産の保護、消防の責任」を持つ実働組織なので、消防の運用にかかる「市町村消防の原則」を変えることはできない。

しかも少子高齢化、過疎化が進むなか、勢力を確保することはできない。

近隣自治体の協力体制として「組合消防」による平素の業務効率化を目指した結果、約1000の基礎自治体は消防本部を持たなくなった。消防の広域化、組合消防によって消防や傷病者の搬送は効率化されたが、市町村長の法的責任と消防の指揮権限や部隊運用の実態は一致しない。災害時には複数首長による勢力の取り合いに消防が振り回される可能性が容易に想像される。

市町村長は「住民の生命財産の保護」の手段を与えられないまま重責を担っている。責務を果たすため、自然、当たり前のように自衛隊への災害派遣要請を考える。自衛隊の派遣要請は、国の地方自治への介入につながる可能性があるなどという発想は、露ほどにない。

一方、消防庁は、消防や傷病者の搬送を中心に考えていれば良かった時代から一変し、大規模災害では緊急消防援助隊を編成し自治体の枠を超えて活動する役割が付与され、さらに武力攻撃事態における国民保護が任務になった。

地方自治の大原則だからと言って、頑なに「市町村消防の原則」(住民の生命財産の保護)を守って消防を運用しようとしていたのでは、「国民の生命財産を保護する」任務を全うできなくなった。

消防庁は、南海トラフ巨大地震などの国家的な非常事態に際して、消防の運用に責任を持つことができない。この問題点は、東日本大震災の原子力発電所の事故対応の手続きに現れた。

使用済み燃料プールに外部から冷却放水を行う必要に迫られたとき、内閣総理大臣から東京都知事へ、総務大臣から6政令市の市長へ派遣要請が行われ、これらを受けて消防庁長官から東京消防庁及び各政令市消防本部へ消防組織法上の出動要請を行うという異例の手続きがとられた。[5]

基礎自治体の首長は、消防を管理しているが、消防本部等が消防を運用するので指揮能力はない。ほとんどの基礎自治体は応援部隊を指揮する機能がない。約1000の基礎自治体は広域消防に依存し、非常勤特別職の地方公務員である消防団[6]は保有しているものの、自己の責任を果たす直接的手段を持っていない。

「国民の生命財産を保護する」責任が不明確になっている。

もう一度、どうやって「国民の生命財産を保護する」のか、原点に振り返って考え、誰が責任を持って国民の生命と安全を守るべきか、実効的な体制・態勢を整備しなくてはいけない。法律や原則を言い訳にして、国民の生命を犠牲にしてはならない。【続く】


[1] 消防防災の現状と展望 all_j.pdf

[2]  1.消防の責任は市町村(自治体消防制度) – 消防防災博物館

市町村消防の原則  180117-3-3-ref5.pdf (fdma.go.jp) 

[3] 消防白書【WEB版】.indb

[4] 消防庁の組織及び所掌事務 all_j.pdf

[5] 月刊フェスク’24.5 p8~9 政策研究大学院大学教授 防災危機管理コースディレクター 室田哲男

[6] 消防団の概要と位置づけ|消防団 オフィシャルウェブサイト