“健康”を意味する英語には、「ヘルス」と「ウェルネス」という二つの言葉があります。1948年、世界保健機関(WHO)は「ヘルス(Health)」を「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であること」と定義しました。

簡単に言うと、「ヘルス」とは、病気ではなく、身体的に体力があり、精神的なストレスに上手に対応でき、社会的に豊かな人間関係がある状態だとされています。

一方の「ウェルネス(Wellness)」は、健康をゴールではなく「手段」と考えるニュアンスがあります。病気の治療を超えて、予防と健康促進に重きを置く考え方です。

具体的には、病気の改善・心のケア・社会参加など、7つの視点から「健康になるための方法」を提案するものです。

レジリエンスを考えるとき、「逆境や困難、強いストレス」といったマイナス要因ばかりに目が行ってしまいがちですが、「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」を実現するという大目標を忘れてはいけません。

1 感情のウェルネス

感情は、精神的なバランスを保ち、生活習慣をコントロールする重要な役割を果たします。近年の研究では、感情のコントロールが脳卒中や心臓病の予防にまで影響を与えていると考えられています。

ストレスに上手に対処して精神的なバランスを保つことは、健康促進と病気予防の両方にとって重要な要素です。

2 知性/認知能力のウェルネス

旅行、映画、執筆活動、絵画鑑賞、描画、パズル、大学の講座受講など、創造性を追求して好奇心をくすぐる活動は、心を楽しませ、知的能力を維持させる方法だとされています。

知性や認知能力は、精神状態、口内環境や食事内容などの生活習慣に影響を与えると考えられており、年齢を重ねるにつれてこれらの維持に意識しなければなりません。

3 身体のウェルネス

身体的なウェルネスは必須です。“病気がない”理想の状態をつくるためには、「病気にならない予防」(1次予防)、「病気を早く発見する予防」(2次予防)、「病気を悪化させない予防」(3次予防)の3つの予防が重要です。

身体の健康を維持し、改善させる生活習慣として、十分な睡眠や栄養、上手な感情コントロール、アルコール量の制限、禁煙、医療機関の定期受診などが挙げられます。

4 職業上のウェルネス

仕事を通して人生の目的や意義を見出し、主体的に人生を選択することは、「生活の質」に大きく影響し、人生の満足度に大きく寄与します。人生の満足度が高い人ほど健康に、長生きすることが、多くの研究で示されています。

仕事には、経験を生かしたボランティアやメンター、趣味を生かした講師などを含みます。

5 社会的なウェルネス

具体的には、家族や友人、近所の人と交流をもつことです。

新しい情報に触れることが精神的な刺激となり、「生活の質」を改善させてくれます。一方で、対人関係が乏しい社会的に孤立した人は、糖尿病や高血圧になりやすかったり、それらを悪化させたりします。

社会的孤立は、病気のリスクだとさえ考えられています。

6 精神のウェルネス

精神の健康(ウェルネス)とは、生きていく上での意味や目的を持つことによって、健康や世界とのつながりを実感することです。具体的な方法としては、自分と向き合う瞑想、信条に基づいた行動、ヨガや太極拳などが挙げられます。

ヨガや太極拳は精神的な安定だけでなく、高血圧や転倒の予防、認知能力の改善などにも効果があることが証明されていて、精神が健康に影響を与えるという意識が高くなってきたアメリカでは、瞑想やヨガのクラスに通う人が増えています。

7 環境のウェルネス

環境には、生活環境だけでなく、職場環境や対人関係、社会経済状況などを含みます。

ストレスの感じ方は人それぞれですが、自分にあった環境づくりを心がけ、適度なストレスを維持することが大事です。過度のストレスが続くと、うつ病や高血圧のリスクが高まります。だからといってストレスを避けるために社会的に孤立してしまっても、病気のリスクが上がります。適度なバランスが大切なのです。

健康でいることを目的ではなく手段と考え、より広範囲な視点から健康を見る「ウェルネス」という健康の概念について述べました。

「健康とは何か?」という問いに、決まった答えはありません。

人生、完璧を求めすぎると、それがストレスになって健康を損ねてしまいますから、どこかで満足感を満たさなくてはなりません。

個々の状況、価値観、ライフスタイルなどを踏まえ、自分にとっての「健康」について考えてみてはいかがでしょうか。より充実した人生を送るきっかけになるでしょう。

幸福とは「足るを知る」ことだ、と言われるように、どこにバランスを求めるかが、レジリエンスを強くする一つのテーマになります。