《ワインは好きだけれど、味はよく分かりません。酒飲みだから、好きか嫌いかと問われれば好きだとしか言えない。好みか好みじゃないかくらいは言えなくはないが、皆で楽しんでいるときにそんなことを言うのは野暮な気がして、こんな味もあるんだなと、飲めれば良しとしています。

でも正直者なので、間違いがないのは、好きなときには口がすすむし、そうじゃないときはすすみません。これは自然な身体の反応だから仕方がありません。

味が分からないので、ワインやお酒を選ぶときには、ラベルで選ぶようにしています。見てくれ優先。自慢したい酒を造ったならば、その酒に相応しいラベルを用意しようとするのは、酒造りをする人の必然的な心理。たぶん、可愛い嫁を出すときに、娘に相応しい着物を着せたいと想う親心と同じだと思っています。お試しあれ!!

あっ、どんなワインでもいけるクラッシュアイスのワインは、私も好きです。》

1896年のChateau d’ Yguemシャトー・イーケムを飲んだ、いえ舐めたのが事実です。それは1973年の出来事です。2番目の店、料理協会会長のオジエ氏のオーベルガードで、お客様がこの1896年のシャトー・イーケムを開けたのです。そして顧客様は1/3ほど残し、皆さんで味わってくださいと云って調理場に持ってきてくださったのです。なんと粋な計らいでしょう。

このとき、私にもお鉢が回り、量で云うとお猪口に2/3くらいを飲んだのです。正直、初めての甘い白ワイン、いい香り、美味しい、そして分かりませんでした。比較対照するにも、私自身にワインの味の経験値が足りなすぎたので、正に猫に小判。

とはいえ、自分が美味しいと感じるものが一番おいしい。これは理屈や約束事、決まりで決められる物ではありません。ただ一つ、大きな縛りがあります。それは、礼儀、マナーです。

自分の好みだからと云って、周りの人に嫌な思いをさせてはいけません。自分一人で、周りに誰も居ないならいざしらず。テーブルマナーで一番重要なことは、他人に不愉快な思いをさせてはいけない、です。ときどき見かけることがあるのが、会食のときに皆さんに料理が配り終わらないうちに食べ始めてしまう、話しに夢中になり、皆さんが食べ終わってもまだ食べずに話し続ける。

洋食の場合、そのために食後のコーヒーがあり、食後酒、そして葉巻があるわけです。葉巻は吸うのではなく葉巻の煙の香りを楽しむものです。お香と思っていただいて結構です。

今でも鮮明に覚えている一コマ。56年前の夏、あの東京タワー下のプール。すなわちフリーメーソンのプールのゲストカードをもらいに行った事務所の天井に、優に30cm以上の葉巻の煙がゆらいでいた、あの甘い香りの部屋、その紫紺の揺らぎ。話しが大分逸れました。ワインです。

フランス料理屋なので、フランスのワインと、この頃美味しくなった日本のワインも置いています。これらは私の料理に合うものを揃えてあります。それと基本的に代表的なものです。

ワインのことを書こうと思ったのは、先日、お客様から干したブドウで作られたワインの話が出ました。私はそのワインのことを知らないので、2~30年前に見た東欧の旅番組で世界的干しブドウの産地のドキュメントを思い出し、そのなかに干しぶどうで作ったワインが出てきたのをお話すると、それはイタリアワインだということでした。それですぐにワイン辞典を開き、見てみました。載っていませんでした。するとネットで調べていただき、知りました。それはアマローネというイタリア、ヴェネット州で作られる陰干しの辛口赤ワインでした。

これはいかんと云うことで、少しワインのお話しをしたいと思いました。

Hugh-Johnsonヒュ・ジョンソン『わいん世界の銘酒とその風土』より。

ブドウ酒というぐらい、ブドウで作っているわけで、ブドウの栽培は紀元前6000年頃コーカサスとメソポタミアで。そして紀元前3000年頃エジプトとフェニキア。前2000年にはギリシャ。そして前500年にスペイン、ポルトガル、フランス南部とロシア。そして、さらにローマ人の動きとともにブリテンに至る、だそうです。

ワインとしては紀元前1000年には、今日のワインに近いものがあったようです。フランスにはローマ人がローヌ川を北上し、2世紀にはブルゴーニュ、3世紀にはロアール、4世紀にパリ、シャンパーニュ、ライン沿岸に。面白いことにアルザス地方では、ようやく8世紀に初めてブドウが栽培されるようになったそうです。

フランスでは各家庭でワインを作ることが認められているぐらい、多種多用のワインがあります。それで混乱を避けるためという常套手段を使って、違法ワインを取り締まったのです。それは原産地名称Appellation d’ Origineアベラシオン・ドリジィヌがあり、その産物の保護、品質維持の法律を作ったのです。

ワインは、Vin de Payバン・ドゥ・ベイ「地方ワイン」。Appellation d’ Origine Controleeアベラシオン・ド・リジィヌ・コントゥワレ(A.O.C)「原産地名称管理銘柄」と呼ばれるワイン。そしてそのうえの「特別優良銘柄」Vin Delemite de Qualite Superieure(V.D.Q.S)の三段階に分けられています。

ここからは少し厄介になりますが、こんなのと思って聞いて下さい。

あの有名なポルド地方では、1855年に格付けしました。

Cruクリュ(生)という格付け目安をつけて、例えばメドック地域のPauillacポイヤック村ではLafite-Rothschildラヒトゥ・ロスチルドゥ、La tourラ・トゥール、Margauxmマルゴ村のMargauxマルゴ、そしてポイヤック村のMouton-Rothschildムートン・ロスチルドゥの4つのchateauxシャトーが最上級のPremiers Crusプルミエ・クリュになりました。この下にDeuxiemes Crusドゥージェーム・クリュ。2番クリュが18シャトーあり、ここまでがメドック村の格付けです。

この下に「原産地名称管理銘柄」Appellation d’ Origine Controleeアベラシオン・ド・リジィヌ・コントゥワレ(A.O.C)があり、更にこの下にVin de Pay地方ワインがあるのです。

ソテレヌとバルザック地域では、冒頭に出てきたSauternesソテルヌ村のChateau d’ Yguemシャト・ディケムがGrand Premier Cruグラン・プルミエ・クリュとして最上級に。この下に1番クリュが11,2番クリュに12シャトーがあります。

サンテミリオン地域では、最上級のPremiers Grand Cru Class プルミエ・グラン・クリュ・クラッセにはAusoneオゾーヌとChval-blancシュバール・ブランの2シャトー。その下にBeausejourボセジュール(Duffau地名デュフォ)と同じく、Beausejour(Fagouetファグエ)、Belairベレール、Canonキャノン、Cols Faurtetコル・フルトゥ、Figeacフィジャク、La Gaffeliereラ・ガッフェリエール、Magdelaineマグドゥレーヌ、Pavieパビ、Trottevieilleトゥロッテビエイヌの10シャトーがあり、その下にGrands Crue Chassesグラン・クリュ・クラッセが76シャトーあります。

Gravesグラッブ地域のPessacペサック村に1855年にPrwmier Cru ClasseについたHaut-Brionオッ・ブリオンがあります。その下に1959年に格付けされたCrus classesクリュ・クラッセが白ワインが8、赤ワインが12シャトーあります。

Pomeralポムロール地域には、あの有名なPetrusペトリゥウスがPremier Grand Cruプルミエ・グラン・グラン・クリュに、その下に61のCruがあります。ブルゴーニュ地方には、小さなぶどう園がたくさん、実は419あります。これをClimatクリマ、風土、季候、土地と訳しますが、1861年にボーヌ地方の農業組合がこのClimatを作り上げました。

この他に、ロワールやシャンパーニュ、アルザス、コットゥ・ドゥ・ローヌ、ボルジョレ、サボア、ラングドック、アルマニャックなどに農業国フランスが誇るワイン産地があります。それぞれ美味しいワインを作っていますが、どれ一つとっても同じ味はありません。同じ農園でも作られた年が違えば自ずと気候が違うので、味も違います。

ちょっと想像してみて下さい。難しいかもしれませんが、今から160年前の日本、すなわち江戸時代です。その頃は、日本全国の農家では、いわゆる手前味噌を造っていました。みんな味が違っていたと思います。21世紀のフランス地方では物は違いますが、今もこの手前味噌のようにワインを作っています。だから面白く、素敵で、美味しい。そして難しいのです。

長くてすみません。美味しいワインの飲み方の一つとして。

今から20年ほど前に大磯に泳ぎに行きました。あまりの人の多さにびっくりして次の駅、二の宮に行きました。ここは俗に云うどんぶりで、下は砂利なのであまり人はいませんでした。私たちはここにしました。何が良いかというと、二の宮駅を降りるとすぐに市場があり、昼食とおつまみを買い、そして喜び勇んで行きつけの酒屋さんにまっしぐら。いつものように安い赤ワインと氷、そして水を買い、浜辺へ。そこで大きな紙コップにクラッシュアイスをたくさん入れて、赤ワインをです。そしておつまみ。

海にはときどき浸かるだけ。昼食を取って一眠り。そして午後3時前に帰り支度。いつものお風呂屋さんでゆっくりと浸かり、時間調整で一人1000円分のパチンコを楽しみ。そして足を伸ばして湯河原へ。

料理屋辺屋さん。ここは大将の気分で出てくる物が違う。私のお気に入りの店で夕食。本当に美味しいです。帰りはロマンスカーで新宿へ。ここで一事件。

ロマンスカーで喉が渇いたのでウイスキーを注文。2杯目と家内のビール。途中でお会計と、もう一杯をお願いしました。するとウイスキーは持ってきてくれたのに精算はできません。お願いしましたがダメで、結果、白状します。無銭飲食。ごめんなさい。でもクラッシュアイスと赤ワインは美味しいです。

3週間前に来られたお客様が、同じく、シャンパンにクラッシュアイスを入れて飲むと何本でも飲めると云っておられました。ただし、ご本人曰く、人間は2~3日使い物にならないそうです。お気をつけを!!

https://www.saibouken.or.jp/archives/3425