Q 市川市の防災上の焦点は、何ですか?

A 市川市は、比較的災害の少ないところです。

国道14号以南は江戸時代頃までは海だった埋立地で、国道14号以北は標高2~30m程度の台地になります。

国道14号以北の3地域は、土砂災害が重点になります。内水氾濫は、市内全域の諸所に予想されています。

江戸川氾濫になると、南部の3エリアのほか、市内を流れる河川添いの広いエリアに被害が想定されます。

Q どのような防災体制を取っているのですか?

A 市内を6つの班「災害6班」に区分して、小学校区防災拠点を設けています。

地区ごとに、小学校区を防災拠点として、避難所を開設、運営し、避難所だけではなく班区域全体のさまざまな活動(共助)を担当しています。

特に、行徳地区は、江戸時代は湿地帯を開発して、塩田地帯となっていた低地地域で、江戸川に囲まれていますので、独立性を持たせるようにしています。

Q 「災害6班」というのは、どのように管理しているのですか?

市の職員と小学校の施設管理責任者と自主防災会などの連携は、どこの自治体でもかなり苦労していますが。

A 自治会役員、PTA、民生委員、消防団などで構成されている「小学校区防災拠点協議会」という自主防災組織を作っています。

「小学校区防災拠点協議会」は、学校職員や市職員と共に、平常時は減災に関する会議(年3回程度)や避難所運営訓練を行い、災害時は主に避難所運営支援などを行う、小学校区防災拠点を地域から支える組織です。

その防災拠点に、市役所の部長以下6名の職員を派遣し、彼らが、市役所の被災生活支援本部(総務部長が本部長)の指揮を受け、自主防災組織の支援を受けてさまざまな活動をするようになっています。

市の職員は、必ず参集できるように、各地域内の近傍に住んでいる者を指定しています。もちろん、市の職員には、家族の安全を優先して確保したのち、参集するように指示しています。

避難所の運営は、避難者によって運営します。

避難所の鍵は、施設管理者の許可がなくても必要なときには、自主防災会の方々がすぐに避難所を開設できるように、キーボックスに入れておいてあります。

また、実効性を高めるように、全校一斉避難所訓練などをしています。

Q 行徳支所は、独立性を持たせているとおっしゃっていましたが、どのような配慮がされているのでしょうか?

A 行徳エリア内に住んでいる者が少ないのが問題点で、橋が落ちた場合などは、参集できない可能性があります。そのときは、市役所の生活支援本部から直接指揮するように用意しています。

消防署も、配置しています。

Q 市の職員の参集態勢は如何ですか?災害対策本部の立ち上げに問題はないでしょうか?

A 大丈夫です。

地震等で災害対策本部要員は、自動的に参集します。

各部長他の危機管理職員は市内に住んでおりますし、管理職(200名以上)は、色々な事情があったにせよ、間違いなく参集します。

市の職員は、約3,000名いますので、市外から通勤している、やむを得ない者もおりますが、市内在住の者で対応できますし、意識は高いと思います。

Q 災害が起きたときの組織と指揮系統が非常に明確になっていて、動きやすい、素晴らしい災害対策本部体制ができていると感じましたが、このような組織ができている理由は、どういうところにあるのでしょうか?

地域住民の気質や歴史的な背景があるのか、それとも教育や訓練の成果なのか、どのようにお考えでしょうか?

A 地域性よりも、訓練や研修の成果が大きいと思います。

災害が少ない地域なので、平成21年に最初の災害対策本部訓練をした当時には、意識は低く、職員から「何でこんなことをするのだ」と、不平不満が沢山出て大変苦労しました。

それ以来の訓練や研修の積み重ねの成果だと思います。

特に、市民の防災意識の高まりの影響が大きかったように思います。

年に数回の「小学校区防災拠点協議会」の訓練には、必ず市役所の指定要員が参加するようになっています。そこで避難所運営に対する防災意識の高い市民の要望を聞いたり、影響を受けたりして、自分たちもしっかりしなくてはいけないという意識が強くなっていきました。

Q 危機管理監には、部長を経験したOBが任用されていると聞きましたが?

A 市川市の災害対策本部の最大の強みは、トップダウンで意志決定ができる危機管理体制ができていることだと思っています。

危機管理監は、部長を経験した後に危機管理監になり、定年退職後再任用され、危機管理監を約10年間勤めています。

また、二人いる副市長のうちの一人は、危機管理監から副市長に就任しているので、災害対策については非常に理解の深い方で、市役所の諸業務に通暁されている方です。

この二人が市長を補佐し、状況に応じて、柔軟に災害対策本部を運営して行きます。

また、市長も防災に関心が高く、避難所にプライベートな空間の持てるテントを用意しろとか、備蓄食は美味しくなくてはいけないとか、非常に熱心に指導されています。

Q 水害対策、特に、江戸川の水害対策は、どのようにお考えですか?

また、気象予報に基づく対応体制は取られているのでしょうか?

A 江戸川氾濫水害の最悪の事態を想定すると、対応が非常に難しい状況になります。

しかし、現実には、利根川上流域で調整され、対策がとられるので、大丈夫だろうと思っています。

市川市近傍の気象情報については、気象情報会社と契約し、機微に情報を入手できるようにしています。

Q 災害対策本部と消防本部との位置関係、国土交通省などからの情報の取り扱いは、どのようになっていますか?

A 各種の情報は、災害対策本部に入ってきます。

消防本部は、災害対策本部と異なる場所にありますが、消防本部長は災害対策本部に位置して、そこから指揮するようになっているので、問題ありません。

Q 現在、重視している施策や課題があれば教えてください。

A 今、HPに小学校区毎の「防災カルテ」を掲載していますが、これを活用して、地域の防災意識を高めていきたいと思っています。

女性の目線から「日頃の備え」を充実させよういう狙いで、「BJ☆Project」を立ち上げましたので、これを充実していこうとしています。

【後記】

災害対策本部体制が、非常にしっかりしていて、市の災害対策本部から市内6地域の「災害班」までの指揮系統を組織図で明確に示し、その指揮系統にしたがって実働できるように訓練していることがよく分かりました。

組織づくりのコンセプト、組織図、組織の運営要領と訓練に一貫性があるというのは、効率的で強い組織を作るための必要条件です。

特に、災害対策本部の指揮下に置かれた「災害班」に市役所の部長以下6名を配置し、市役所職員と自主防災組織の連携をとりつつ、自主防災組織による避難所の運営と、市役所職員と自主防災組織の連携による共助を実施する体制は、訓練と研修によって実効性を確保されており、基礎自治体の災害対策本部体制の一つのモデルになるものだと思います。

特に、市役所で災害対策本部長が隷下組織を「指揮する」という表現を聞いたのは初めてで、新鮮な嬉しい驚きがありました。

平成21年から始めた訓練と研修の成果で、住民の防災意識が高まり、市の職員にも高い防災意識が定着したというところは、他の自治体の参考にすべきところです。

明治時代は、軍都として栄えていたという市川市の歴史的な背景もあるように感じました。