つるみ共育保育園園長で、防災への取り組みをなさっている藤實智子さんに、保育園での防災意識の現状などについて伺いました。藤實さんは、東京消防庁で消防士の経験があり、一般社団法人保育の寺子屋代表理事として防災の事業にも取り組んでいらっしゃいます。(インタビュアー:吉田明生)

 藤實さんには、東京ビッグサイトで開催した第3回防災グッズ大賞展にご来場頂きました。さまざまな職場で働く現場の方々の防災への関心や意識、防災の現状について知りたいと思っていたので、お話を聞く機会ができて嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。 

あのときは、保育園を経営しているとお聞きして「へぇ~」と思って印象に残ったのですが、防災グッズ大賞展は如何でしたか。

 面白くて、ワクワクしながら一つひとつの防災グッズを見て回りました。とても楽しかったです。

 藤實さんが、防災に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。

また、保育園での防災に対する意識の現状や保育園での課題について、どのようにお考えですか。

 東日本大震災のとき、子供たちを一晩預からなくてはならない状況になりました。そのとき、保育士の先生方は、何をすれば良いのか分からない状態で、防災に関する基本的な知識が知られていないように感じました。

しっかりした大規模な保育園はそうではないのかもしれませんが、全国の小規模保育園の皆さんとお話しをすると、まだまだ防災意識の低く、何も知らない保育士も多いのが現状で、小さな命を守る者としてなんとかしたい!という思いで防災に関する事業を始めました。

今、クラウドファンディングで、保育園の保育士さん向けのリーフレット作りに取り組んでいて、防災の専門家の方から学ばせて頂きたいと思っています。

 保育士のお仕事の基本は子供たちの安全を確保することだろうと思うのですが、それでは足りていないということでしょうか。

 もちろん先生方は、日常的な保育に関する安全確保には関心が高く、最大細心の注意を払って仕事をなさっています。しかし、定められたとおりに業務をすることに追われていて考える余裕がなく、普段と違ったことが起きると、対応できないのが実情です。

災害が自分事として考えられないとか、いつかは起こるかもしれないが、まだ来ないだろう、という受け取り方です。

災害のリアルな声を聞いて、“恐い”から備えなくてはいけないのだという危機意識を持って欲しいと思っています。

 保育園は、駅前のビルの中にあるようですが、そのビルの耐震性能はどうなっているのでしょうか。阪神淡路大震災の後に建てられたものであれば、建築基準としては十分な耐震性があることになります。

大規模な地震が発生したときに死傷者を出した原因は、建物の倒壊と落下物と火災の三つで95%以上を占めています。阪神淡路大震災での例をあげると、建物が倒壊・落下物による圧死・窒息死が83%、火災によるものが13%でした。

近年の地震では、家具類の転倒による負傷者が4割程度を占めています。

建物の倒壊の心配がないのであれば、落下物がないようにする、家具が倒れないようにする、火災が起きないようにする、ということで震災時のほとんどのリスクに備えることができます。

 保育園の入っているビルは、割と新しいビルなので耐震性能は十分にあると思います。

事務所は倉庫のようなっているので片付けなくてはなりませんが、子供たちが使っている部屋は大丈夫です。

 もう一度チェックして、室内での落下物がないように、整理整頓をすると良いでしょう。

保育園のビルの周辺で起こる可能性のある災害や外に出たときに予想されるリスクには、どのようなものが予想されるのでしょうか。

例えば、火災が起きやすい建物があるとか、危険物があるとか、何かがが落ちてきそうなものがあるとか・・・。

 周辺のビルも大丈夫だと思うのですが、もう一度確認してみます。プロパンガスは、大丈夫でしょうか。

 安全基準が厳しく設定されているので、違法に置かれているものでなければ、保安基準に合致しているので大丈夫でしょう。ただ、火災が起きて、そこに火が回るというようなときには、早く逃げるしかありません。

ビルのガラスや落下物があるかどうかは安全のチェックポイントになります。

家具が倒れないように固定し、室内の整理整頓を習慣化し、保育士の方々に火災の起きたときの対処要領を考えてもらえば、大規模震災の対処が準備できたことになります。

その他に、保育園の防災の現状で気になっていることはありますか。

 防災訓練、避難訓練がマンネリ化していて、いつも同じ時間に、同じことを繰り返している保育園が多いことも気になります。

 おっしゃる通り、例えば、避難経路を変えるとか、外出先から避難するとか、少しずつ状況を変えて訓練するのはとても良いと思います。難しいことをしなくても、パターンを変えるだけで意識も変わります。

自分たちが災害にあったらどうしようということだけではなく、親御さんに何か不都合があって、引き取りに来られなくなって、子供を預からなくてはいけないことだってあるかもしれません。そのときに、どうすれば良いかを保育士の皆さんに考えてもらうのは、災害時の対処と同じようなものです。

食事や水、宿泊の用意などを考えることは、災害時の備蓄を考えることに通じます。

先日、大阪でビル火災が発生しましたが、あのような事件が起きたときにどうしようと考えてもらうだけで、ニュースが自分のことになってきます。

藤實さんは元消防士ですから、火災を取り上げて、万が一に備える動機づけをするのは、説得力があるのではないでしょうか。

日常生活のなかにこそ、災害への備えはあります。皆さんに、防災が特別なものだとは思わせないでください。

普段の保育園のお仕事のなかでの危険や事故などは、どのようなものを予想されているのでしょうか。

 最近のニュースでは、子供を公園などに置き去りにしたという事故が散見されていますし、子供が勝手に家に帰ってしまって気がつかなかったという話もあります。

保育士は、子供の安全については本当に真剣に気を遣っているのですが、何か根本的なところが足りていないのかもしれません。

 集団行動をさせるとか、大人数の人を動かすということにも、ちょっとしたノウハウがあります。

例えば、集団で行動するときには、先導する人は先頭を歩く、最後尾から全体を見る人がついていき、中間付近に直接、指導する人を配置する。

必ず行動の節目や定期的に、人数を確認する。

あるいは、いつも二人ペアで行動するように躾をしていく。 

管理的な話になりますが、必ず記録をする、というようなことです。

こういう簡単なことも積み重ねや習慣化が、安全管理や危機管理の能力を身につけることにつながっていきます。

保育園での先生方の研修や毎日の意思疎通は、どのようになさっているのですか。

 保育園でのミーティングは朝、昼に必ずやっていますが、先生の交代制をとっていることや雑用が多く、子供が昼寝をしている時間を使ったりして、最低限のことしかできていないのが現状です。

保育士のキャリア研修は、しっかりしていますが、最近は、子供を自由にさせるのが良い、嫌いなことはさせない、強制することはできるだけ避けるほうが良い、というような指導の考え方が強いので、子供たちを統制するというのは難しくなっているように思います。

キャリア研修に防災は入っていません。

 保育園の現場での防災意識などについて、少し理解できたように思います。

長時間、ありがとうございました。

【後記】

防災教育は、防災意識を普及すると同時に、先生方に指導のノウハウを教えて指導能力を向上させる場としての意義があるのかもしれません。

良いものを身につけるというのは、絵画を学ぶときに繰り返し有名な作品の習作をしたり、書で古典を臨書したり、スポーツで習慣化するまで繰り返したりするのと同じことです。

良い習慣を身につけようとしてもどうしても理想の形通りにできないものを個性と言うのであって、最初から好きにしているのは、わがままとか癖でしかありません。

教育に置いて「自由と規律」は永遠のテーマでしょうが、良い習慣を身につけさせることと自由にさせるということは、決して相反するものではありません。

指導要領をマニュアル的に決めるのはマイナスが大きいように思います。

以上