個性を大切にすることは、生きる目的に通じます。自分の個性を大切にする人は、他人の個性も尊重することを学ぶ。それが社会性であり、政治であり、人の生きる智恵でもあります。「人は専制支配下に置かれようとも、個性が生き続ける限り、最悪の事態に陥ることはない」と語ったのは、ジョン・スチュアート・ミル。個性の出発点は「自分のことは自分でやる」。品の良いレンジャー隊員は「自分のケツは自分で拭け」と言っていましたが・・・。

私が見習いの頃、老舗と言われたレストランを見ると、ほとんどがオーナーシェフ、すなわち料理人が経営者でした。そして、家族経営で重要なポジションを担っており、オジエ氏のところでは調理場にオジエ氏の娘婿のボルディエ氏、ホールは奥様と娘さん二人が中心で、このときオジエ氏は84歳でしたが、現役バリバリで、朝4時に起き、石炭ストーブに石炭をくべてから、ワゴン車で市場に仕入れに行っていました。

土日以外はそれほど忙しくないので、昼のサービスが終わると、納屋からトヨタの小型トラクターを出して、牧場の整備をしておられました。

また、身内のいないレストランでは、ストーブ前など重要なポジションには店から離れないように高給を出しておりました。そして、修行中の若手は1~2年ずつ、これらの店を5~6店回り、腕、料理の幅、知識を上げ、30代に独立していきます。もしも失敗しても、30代ならば再出発できます。

仲間を見ると(一般的フランス人は)お金儲けも好きですが、それよりも人に使われたくない思いが強いようで、個人個人を非常に大事にしております。

子供ができても、個人で子供を預かる仕事をしている人がおります。(当時、フランス政府は、将来を見据えて、子供を殖やす政策をとっており、結婚するようにと独身には税金が高く、そして子供が3人以上には、ほとんど税金がかからないような政策をとっておりました。)

全体的に、ヨーロッパでは、クリスマスに家族で集まり、大みそかにはReveillonレベイヨンと言って、真夜中の食事をレストランで摂る習慣があり、私もクリスマスには、親友のカメリアのドミニックの家で過ごしました。

そのときドミニックの兄嫁が6歳の息子フランクと10歳のフィリップと女の子の赤ちゃんを連れてきました。赤ちゃんは預かっている子で、自宅で自分の子を育てながら、他人の子供を預かり、育てていることを初めて知りました。この子もフランクとフィリップに懐いており、まるで自分たちの妹のようにおしめを替えたり、ミルクを上げたりで、ビックリ。

また、結婚して、家事を分担しているのにも驚きました。これは夫婦だけのことではなく、子供たちにも同じで、仲間のところでは、食事の後片付けは子供たちにやらせていました。子供たちは小さいときから行っていることなので、何の疑問も感じてはいないようでした。

個人の人格を大事にする出来事がありました。

カメリアのパスカルと一緒に帰っているときに、警察に止められ、パスカルのモビレット(原付)の前照灯不備で捕まり、切符を切られました。そのときパスカルは19歳で未成年(当時のフランスの成年は21歳でした。)だったのです。彼の父親が、自分で始末をつけなさいということで、簡易裁判所に出廷させました。

もし、これが日本で私が起こしたならば、多分、私の父親が出てくるだろうと思いました。個人の人格、義務、そして人権について考えさえられました。

そうそう、オジエ氏の店は大きく、あるとき、バタバタとものすごいエンジン音がして、外を見るとヘリコプターが降りてきました。聞けば、リヨンから(500kmある)ヘリコプターでお客様をお連れして、こんなこともできますと言ってセールスをしているとのこと。私が在職中に3回ありました。売れたかどうかは分かりません。