《龍圡軒は、洋画はもちろん、書でも猫の絵でも、何でも似合う不思議な空気があります。きっとそれぞれバランスを考えて選び、微妙な光の具合を調節して飾られているからそう感じさせるのでしょう。 最近、クールビズが定着し、服装が自由化して、以前のTPOが随分変わってきました。自衛官の時代は、服装について何も考えずに済んで良かったな、なんて思ってしまいますが、明確な基準がなくなればなくなるほど、人それぞれの周囲に対する思いやりや立場の認識や配慮などの感性、センスが、より問われる時代になってきたように思います。

うちのネコが太った、しばらく見ないうちに太ったのです。

「えっ、どうして」とお思いでしょうが、飼いネコの話ではなく、日本画の黒ネコのことなのです。この黒ネコは、子供の頃、夜中にトイレに起きると目が光って怖かったネコで、この子が太ったのです。

書道家の柏木白光先生の若先生の和歌の書をしばらく掛けさせていただいておりました。しなやかで艶やかな筆跡で、色気があり、白光先生からは「私には書けない」と大変高評を受けておいででした。それを半年ほどお借りし、お返しした後に黒ネコが戻ってきたのですが、店に掛けてみると、「あれ!この子はこんなに太っていたのか」と思いました。本当です。太ったのです。

前日まで掛けさせていただいていた若先生のしっとりとした筆使いが脳裏に残っているところに、少し強烈な、そして店では唯一黒色の絵の黒ネコが現れたものですから、繊細な線で表現された和歌が印象に残っていて、その影響で、細く見えていたものが太って見えたのです。

同じものなのに面白いと思うのと同時に、料理や音楽などの文化、いや存在すべてのものにつながることだと思います。今、量子物理学の本を読んでいて、話が変な方に飛びましたが、そう思いました。

私がフランスから帰ってきた30歳の頃、友人やお客様と、秋川渓谷でバーベキューをしておりました。皆さまが想像されるバーベキューとは、一味もいや十味も違うバーベキューです。

最初は、50人くらいでバスを1台貸し切って行きましたが、若い女の子が気取ってしまい、あまり面白くなかったので、翌年は、若い女の子にはご遠慮いただき、子供やお年寄りをお連れしました。これは大成功でした。

歌は出るは踊り出すはで、バーベキューの内容は、仔羊一頭、鶏10羽、ワイン、ビール、ジュース、水、野菜。先発隊として、うちの出入りの肉屋さんに朝5時に着いてもらい、(1年目は9時に着き、10時から焼いたので、昼には半生だったので解体して火を通すことになったため、翌年からはこのやり方で行いました。)昼の12時には食べられるようにしました。

100人ぐらいが仔羊を欲しがるので、切り分けるのに忙しく、一口も口に入れる時間がありませんでした。骨になったなら、寸胴鍋に野菜を入れ、スープを作り、食してもらいました。そして最後に、子供たちにゴミ袋を渡し、「ハイ、ここからあそこまでゴミを全部拾って」と云うと、喜んでゴミを拾い、片付けてくれました。

何年か続き、お仕事としてもいただきましたが、7年目位のときだと思いますが、主催者である私が酔っ払ってダウンしてしまいました。

そのとき友人の、芝にあるクレセントの料理長の関さんと、パリのリッツで一緒だった茂木さんが采配してくれて、無事に終わりました。そして、店に帰って気付いた私に茂木さんから「分かるよ。お前が全員を知っているからグループを盛り上げるのは。だからと云って、ここで一杯、あそこで一杯。でもな、主催者であるお前が酔っ払っちゃダメだよ.情けないよ」と泣いて説教され、これで最後にしました。

その後、お客様から「あの仔牛の味が忘れられない」と同じ仔羊のローストを店で食していただいて、何人ものお客様に云われました。「また、やってください」と。

そうなのです。場所や季節、年齢などによって、同じものでも感性によって、味や色も変わるのです。

フランスから帰ってきた当時、パリで来ていたスーツが東京では似合わないのです。パリと東京では、空気、光が違うのです。極端な例ですが、海辺で着るヨットパーカーを都会、または山で着ても、何かがズレています。

よく云う、TPO(Time時、Place場所、Occasion場合)をわきまえて、おしゃれをしたいと思います。